知財高裁 特許訴訟 MTG v. ファイブスター

MTG(原告)が保有する特許をファイブスター(被告)が侵害したとした特許訴訟において、知財高裁は原告の特許権に対する被告製品による侵害を認め、4億4,006万円(損害額3億9,006万円、弁護士費用等5,000万円)の支払いを被告に命じる判決を言い渡しました。裁判所は、一審判決で考慮した寄与率10%を規定や根拠がないとし、本特許部分のコストベースの貢献度でなく、特徴としての貢献度に着目し、限界利益(売上-製造原価-販管費の一部≒営業利益)の40%相当を本特許の特徴的貢献度が占めるとしています。以下は、特許法102条1項による損害額に関する本判決の抜粋です。

原告製品の限界利益の額は,原告製品の前記(ア)の売上高から前記(ア)の製造原価と前記(イ)cの各費用の合計額を控除した69億6809万2706円であり,これを,前記(ア)の期間における原告製品の販売数量125万6410個で除すると5546円(69億6809万2706円÷125万6410個≒5546.03円。1円未満切り捨て)となる。

本件のように,特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても,特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべきである。

しかし,上記のとおり,原告製品は,一対のローリング部を皮膚に押し付けて回転させることにより,皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器であるから,原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は,ローリング部の構成であるものと認められ,また,前記アのとおり,原告製品は,ソーラーパネルを備え,微弱電流を発生させており,これにより,顧客誘引力を高めているものと認められる。これらの事情からすると,本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから,原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく,したがって,原告製品においては,上記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。そして,上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け,原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割であると認めるのが相当である。

以上より,原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては,原告製品全体の限界利益の額である5546円から,その約6割を控除するのが相当であり,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,2218円(5546円×0.4≒2218円)となる。

特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以
下「販売できない事情」という。)があるときは,販売できない事情に相当する数量に応じた額を控除するものとすると規定しており,侵害者が,販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には,同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。そして,「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情がこれに該当するというべきである。本件においては,(中略),この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相当である。

以上からすると,特許法102条1項による一審原告の損害額は,被告製品の譲渡数量35万1724個のうち,約5割については販売することができないとする事情があるからその分を控除し,控除後の販売数量を原告製品の単位数量当たりの利益額2218円に乗じることで,3億9006万円(2218円×35万1724個×0.5≒3億9006万円)となる。