最高裁判決 知財訴訟 デビオファーム v. 東和薬品

デビオファーム・インターナショナル・エス・アー(原告)が保有する特許を後発薬品メーカーの東和薬品(被告)が侵害したとした特許訴訟において、最高裁は原告の請求棄却し、原告の敗訴が確定した。

特許法68条の2は,「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定する。

最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁(ボールスプライン事件最判)は,特許発明の技術的範囲における均等の要件として,①特許請求の範囲に記載された構成と,対象製品等と異なる部分が,特許発明の本質的部分ではなく,②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外され
たものに当たるなどの特段の事情もないとき,との五つの要件(以下,上記①ないし⑤の要件を,順次「第1要件」ないし「第5要件」という。)を定めている。そのため,法68条の2の実質同一の範囲を定める場合にも,この要件を適用ないし類推適用することができるか否かが問題となる。

対象製品が特許発明の技術的範囲(均等も含む。)に属することについて法68条の2は,特許権の存続期間を延長して,特許権を実質的に行使することのできなかった特許権者を救済する制度であって,特許発明の技術的範囲を拡張する制度ではない。したがって,存続期間が延長された特許権の侵害を認定するためには,対象製品が特許発明の技術的範囲(均等も含む。)に属するとの事実の主張立証が必要であることは当然である。なお,このことは,法68条の2が政令処分の対象となった物についての「当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない」と規定していることからも明らかである。

被告各製品は,作用効果の同一性などその余の点について検討するまでもなく,本件各処分の対象となった「成分,分量,用法,用
量,効能及び効果」によって特定された「物」についての本件発明の実施と実質同一なものとして,延長登録された本件特許権の効力範囲に属するということはできない。